クマと遭遇するのを恐れて安易に山へと入れない”何とも不自由”な時代になった。
山登りから遠ざかって久しいが、40年ほどの登山歴の中でクマと出会ったことは1度も無く、出会ったのはサルやシカといった人にはあまり害の無い動物が大半。
以前はよく見かけたライチョウが、最近では数を減らして見ることも珍しくなってきたというのはチョット残念ではある。
また何度か見かけても良さそうなのに、たった1度きり見ただけなのは双六岳の岩場で偶然見つけたヤマネ。
夕暮れの気温が下がる時間帯、石の上で小さな身体を更に縮こめて寒さに震えている姿は、「持ち帰ってペットにしたいなぁ(当然ダメ)」と思うくらい可愛かった・・・。

25年ほど前の丁度今頃のこと、皇海山と至仏山(どちらも日本100名山)の2座を1日で登ってやろうと埼玉の社宅(当時単身赴任中だったので)を車で出発した。
前橋→沼田と走ったあとは国道と別れて非舗装の山道(栗原川林道)を約40分、皇海山登山口の駐車場に着いたのは未だ空の明けやらぬ時刻だった。
準備を整えてしばらくすると漸く空も白み始めたので「よし行くぞぉ!」と勇躍?歩を踏み出す。
栗原川に沿った登山道は生い茂る草に覆われて定かではないが、地図では川沿いに続いているので足で草をかき分け躊躇なく進む。
やがて川の流れが消えるところまで来たが、正面奥に何やら踏み跡らしきものが続いているのを確認してそのまま直進。
しかし山の斜面は次第に傾斜を増していき、真っ直ぐ続いていた踏み跡も傾斜を緩める様に右に折れ左に折れし始めた。

そんな山道を30分も登ったろうか?踏み跡はいつの間にか無くなり辿るべき道は消え失せた。
「えぇどっちだぁ」と辺りを見回して足跡の痕跡を探すがそんなものはどこにも見当たらない。
ふと視線を上げて15mほど先を視ると、大きな1頭のカモシカがこちらをジッと見つめており、視線が合った瞬間にそのカモシカは巨体を翻して小生の視界の外へと駆け去って行った。
「そうかぁ獣道だったか」と小生は漸く辿った道の間違いに気付いたのだが、今更来たところを下って正規の道を探す気にもならない。
地図を出して確認すると、頂上へのルートは尾根道で「此処から直登して尾根に出れば登山道がある」と確信?、結果的には急斜面の藪漕ぎを強いられながらも何とか登山道へと戻ることが出来たのだった。

予定時刻を15分ほど過ぎて皇海山頂上に到着。
道を間違えて少し焦ったが、この分なら「多分予定通りに進行しそう」と安堵の思いに浸りながら、辺りに誰も居ない静寂に包まれて独り小休憩した。

下山時に何処で道を外れたか探すと、やっぱり川の流れが消えた場所だった。
本来は右手の谷筋を登らなければいけなかったが、小生はそれを直進したと云う訳。
それにしても直進の踏み跡は結構明瞭で、谷筋への踏み跡は一見判り難いのは何故だ?
多分多くの登山者が道を間違えたことに起因していると思うが、こう云うところに絶対必要な道標テープは視た限り何処にも無かった・・・。

駐車場に戻って次に向かうのは片品村の戸倉温泉で、鳩待峠行きのバスに乗るには遅くとも11時15分にはバス停駐車場に到着しないといけなかった。
「急がなくっちゃ」と幅員が狭くガレ石でパンクする恐れもある栗原川林道をダートを行くラリー車並み?の高速(小生の気分的には)で飛ばし、国道も順調に走れたお陰もあって何とか定期バスに乗れた時にはホッと安堵のため息が漏れた。
だが、鳩待峠に着いてからがこの日の本当の後半戦の始まり。
時刻は12時チョット過ぎで、これから山ノ鼻→至仏→小至仏と山道を辿って16:30発の最終バスに乗れる時刻までに此処に戻って来る必要があった。
所要時間を正味4時間15分前後で収めなければいけないので、休憩は少なめで短時間の結構ハードな登山になると覚悟した。
鳩待峠から山ノ鼻間の山道は下り基調でTime 短縮を目論んだのだが、尾瀬が花の季節を迎えたせいで行き交う登山者が多く、速足で歩くことが出来なかったのは想定外。
尾瀬には何度も来ており至仏にも1度登っていたので、「焦る必要はないよ」と自分に言い聞かせながら、心持ち歩速を上げて山ノ鼻分岐を目指した。

山ノ鼻から至仏山へは標高差800mの直登で、疲労感を覚える様になった身体には少々キツかったが、ここはそれを我慢して木道や木階段・蛇紋岩から成る山道を黙々と登るしかなかった。
やがて傾斜がなだらかになり、視線の先に大きな石作りの山頂標が見えてくると登行もやっと終わり。
この苦行へのご褒美が、振り向くと視界いっぱいに拡がり観える尾瀬ヶ原の大展望。
正面の大湿原を囲む様に景鶴山・燧ヶ岳・皿伏山が配される景観構図は秀逸そのもので、尾瀬ヶ原に点在する東電小屋や龍宮小屋の他、目を凝らせば木道の筋やそこを歩く登山者さえも視える・・・。

岩に座してしばらく景観を楽しんだ後、我に返って時刻を見ると14時半をかなり過ぎていた。
「おっとゆっくり出来ないぞ」と独り言を呟きリュックを背に担いで歩き出す。
此処からは下りで特に意識しなくても歩速が上がるのは仕方ないが、それに脚がついていかず小さな段差で躓いて前転びしそうになった。
「疲れてるのかな?」こんなところで転んで怪我するのはまっぴら御免と、緩んだ気分に気合を入れ直した。
小至仏を過ぎると山道は木道一辺倒に変わるが、実は小生は木道の上を歩くのがあまり好きじゃない。
”濡れてると滑る”し”長い距離を歩くと脚が疲れる”のがその嫌う理由で、大きな声では言えないが、自然保護の大切さは理解しているもののいつも「木道よ早く終わってくれ」と不謹慎に思う。
悪沢岳分岐を過ぎると鳩待峠まではあと少し。
最終バスの時刻までは未だ余裕があるので、今度は「そんなに急がなくても良いかぁ」と進む脚に意識的にブレーキをかけて歩速を落とした。
”100名山を1日2座を登る”今回の目標はこれでコンプリート、ささやかな満足感が徐々に心を満たしていくのが分かった・・・。























































