風を道連れに

☆あるボッチローディーの独り言☆

たにぐみさん参り

 

ここ5日間ほど体調が良くない。

と言っても寝込むほどの不調では無く、単に軽い頭痛がして身体が妙に重いという程度なので、人によっては「なんだそれしきの事で」と言うかも知れない。

こんな時は、家でじっとしていれば良いのだろうが、そうすると今度は「こんな好い日に家にいるなんて」と影の声が囁き、ストレスが溜まって「精神衛生上宜しくない」となるので、結果的にはバイクでどこかに出掛ける事になる。

そんな訳で、今日は往復50km程度の軽めのライドを計画した。

行先は、たにぐみさん(谷汲山華厳寺)を予定。

 

街中を抜けて郊外の川沿いの道を走る。

この道は遊歩道だから、散歩する人がいてチョットだけ気を遣う。

すれ違う時は、道を空けてくれて有難うと頭を下げて挨拶し、追い越す時は「右(左)を通ります・・・有難う」と注意喚起とお礼を言う様にしているという訳だ。

そんな風にして暫く走っていると、何処からかいい匂いが漂ってきた。 

「うぅん、パンを焼く匂いだが、この辺りにパン屋さんがあったっけ?」辺りを見廻すがそれらしい建物は無い。

パン屋さんって結構意外なところで営業できるものだ、以前行ったパン屋さんは住宅街の中の普通の家だった。

この匂いの主もそんな感じかも知れないなぁと思い、帰ったら調べてみる事にした。

 

根尾川にかかる赤い欄干の万代橋を渡ると、辺りは里山の風景に変わる。

山では広葉樹の落葉が進み、田畑もひっそりと冬の到来を待っているかの様だ。

f:id:yoshijiji:20201209195312j:plain
f:id:yoshijiji:20201209195342j:plain
万代橋                 冬を待つ里山

 ここからは見えないが、奥美濃の山々はどんな感じなんだろう?

例年なら12月中旬頃には初雪の便りが届くが、今年は西高東低の冬型気圧配置もまだ 少なく、シベリア寒気団の南下も遅い様だから「1~2週間は遅れるかも知れないなぁ」と勝手に思う。

まぁスキーを止めてもう20年ほどになるから、奥美濃に雪が降ろうが降らまいが、小生の生活には何の関係も無いんだけど・・・。

f:id:yoshijiji:20201209195742j:plain

山辺の道を走って谷汲を目指す

車通りの多い道を避けて山辺の道を走ると、山際に佇む集落では、村人の焼く落ち葉の煙が一筋立ち上がっていた。

「あぁ、冬支度という感じだなぁ」

その郷愁的な風景を目にして、気持ちが少し穏やかになっていくと感じるのは、情緒的な日本人の特質なのだろうか?

 

谷汲には、今から19年前(2001年10月)に廃線となった名鉄谷汲線の駅舎が、当時の使用車両2両と共に保存されている。

f:id:yoshijiji:20201209200038j:plain
f:id:yoshijiji:20201209200057j:plain
 モ510型(T15年製造)            モ750型(S2年製造)

昔のこと、小生はその車両のどちらかに乗ってここを訪れた朧げな記憶があるのだが、 どういう経路で、また何のために来たのか等の内容的記憶は全く無い。

記憶が創られるのは脳科学の常識だが、谷汲を訪れたというその記憶自体が創られて いるとしたら、人間にとって記憶って何だろう?とも思う。

話しは変わるが、岐阜市内の路面電車チンチン電車)の廃線は1988年の事になる。

その頃、既に多くの人(当然小生も含む)は路面電車に乗ることは無くなっており、 小生の路面電車の記憶も中学生頃までのモノとなるが、その断片的な記憶を辿ると1台の車両(モ510型)が鮮やかに蘇る。

特徴的な丸窓と赤いベルベットの長座席、木製板張りの床、微かな油の匂い、車両の横揺れ合わせ前後に身体を揺らす乗客や「チンチン」と鳴るベルの音。

これは決して創られた記憶などでは無く、確かにこの車両が走っており、それに小生が乗ったという確信を伴う記憶であると信じて疑わないのだが・・・。

 

駅舎跡に併設されたトイレで小用を済ませて、いよいよ"たにぐみさん"へと向かうが、脇道を進んで長い参道へと出ると、思いの外の人出にチョット吃驚する。

f:id:yoshijiji:20201209201121j:plain

谷汲山華厳寺への参道

谷汲山華厳寺は、創建以来1200年余の歴史を持つ名刹で、西国三十三番満願・結願の 霊場(巡礼の最後に訪れる寺)だから参拝者も多いということか?

不信心な小生なので詳しくは知らないが、西国霊場の巡礼は日本で最も歴史ある巡礼行らしく、今の霊場(参拝寺)が定められたのは1000年ほど前、一方、有名な四国遍路はそれよりも300年ほど後になって、今の四十四ヶ所めぐりが成立したということだ。

 

参道は関係者の車両を除いて進入禁止になっているが、自転車は規制されていない様子なので行ける所まで行ってみようと走り出す。

参拝者を避けながら参道を700mほど進んで、仁王門前でバイクを停めるとそこからは徒歩。

そこではたと気付いた「しまったマスクをしてない」急いでポケットからマスクを取り出して何食わぬ顔で付けた。

f:id:yoshijiji:20201209202027j:plain
f:id:yoshijiji:20201209202044j:plain
本堂に続く石段               華厳寺本堂

本堂手前の手水舎でバイクを石垣に預け、参拝者に混じって石段を本堂へと登る。

いつもなら歩き出すとすぐに痛みだす病んだ左足首が、今日は不思議と痛まないのは 何故だろう?

観音菩薩の思し召しかな?」といつになく信心深い思いがふっと脳裏に浮かんだのは場所柄故か。

本堂では家族みんなの健康と安寧を祈願して、一つ肩の荷を降ろした気分になった。

 

帰路は、谷汲から南下して立花峠を越えるルートを予定していたが、谷汲周辺探訪で 時間を使い過ぎてタイムスケジュールが狂った(最近動きが鈍くなった所為か?こんなことが度々ある)ので、止む無く大谷トンネルを抜ける時短ルートをとる事にした。

後ろめたい気持ちはあるが、これで20分は稼げるのでこの後の走行が楽になる筈だ。

f:id:yoshijiji:20201209202653j:plain
f:id:yoshijiji:20201209202711j:plain
  大谷トンネルに続く道         三水川で見つけた越冬マガモ

トンネルを抜けて坂道を高速で下り、そのまま三水川沿いの道を大野の街中へ向けて 走り続ける。

交差点はあるが信号は無い道を、車などに注意して4kmほど進んだところで川面に視線を送ると、マガモらしき鳥が10数羽群れているのが見えた。

静かにバイクを停めて辺りを見廻すと、そこかしこに5~6羽の群れがあるのが判る。

「やっぱりもう渡りの時期なんだなぁ」とあらためて冬の到来を実感すると共に、この時期になると必ず飛来する渡り鳥の習性の不思議を思った。

 

あと40分ほど走り続ければ居宅に帰り着く。

今日は、期せずして冬がそこまで来ていることを確かめるライドになった様だ・・・。